2007.09.02 Sun
同じ月を見ている

「うん。今シャワー浴びてたから」
バスタオル姿で部屋を横切ると、すっとカーテンを開ける。
マンションの高層階。
人目を気にする必要はない。
サッシを開けて外に出ると、すっかりと秋の気配を含んだ風が火照った肌に心地よい。
「うわぁ、きれい!真ん丸お月さん!ねぇ、そっちからも見える?」
電話の相手はいつもながら無口だ。
送話口の向こうでガラガラと窓を開ける音がかすかに聞こえる。
「おう、見える。ホントだ。真ん丸だ」
さすがに無口な彼も、きれいな月に少し興奮気味だ。
「不思議だね。今、そっちとこっちでおんなじ月を見てるんだね」
そう言ってから、あらためてお互いの置かれた距離感を感じる。
「遠いなぁ」
「そうだな」
「ねぇ、私の事、好き?」
「なんだよ、いきなり」
「なんでも。ねぇ、好き?」
「おう」
「『おう』じゃなくて、ちゃんと好きって言って」
「なんだよそれ」
「いいから、言ってよ」
「・・・・す」
相手の言葉はくしゃみにかき消されて聞き取れなかった。
「ちょっと寒くなってきちゃった。ごめん!また連絡するね。おばさんにもヨロシクね。暮れには帰れると思うから。うん。うん。じゃ、バイバイ」
部屋に入る。
サッシを閉めると、部屋の中が映し出される。
ベッドの中で経済誌を読んでいた中年の男がそっと目を上げ微笑む。
「ゴメンね。おまたせ」
振り向いてバスタオルを外し裸になると、勢い良くベッドに飛び込んでいった。
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